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神戸地方裁判所 昭和53年(行ウ)22号 判決

加古川市平岡町新在家広畑八〇二番地の一

原告

ボルカノ食品工業株式会社

右代表者代表取締役

高橋輝代

右訴訟代理人弁護士

吉川武英

山崎満幾美

加古川市加古川町木村五-二

被告

加古川税務署長

仲畑久義

右指定代理人

坂本由喜子

安居邦夫

八木源二

杉田守弘

石黒宏昭

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

被告が原告の昭和四九年一二月一日から昭和五〇年五月三一日まで及び昭和五〇年六月一日から昭和五一年五月三一日までの各事業年度の法人税について昭和五二年三月七日付でなした各更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二、被告

主文同旨の判決

第二、当事者の主張

一、請求原因

1  原告は被告に対し、昭和四九年一二月一日から昭和五〇年五月三一日までの事業年度(以下、第八期という。)及び昭和五〇年六月一日から昭和五一年五月三一日までの事業年度(以下、第九期という。)の各法人税について、次表「申告」欄記載のとおり記載した確定申告書を提出したところ、被告から、昭和五二年三月七日付をもって、同表「更正」欄記載のとおり更正処分及び過少申告加算税賦課決定(以下、本件処分という。)を受けた。

〈省略〉

2  原告は、訴外日本製麻株式会社(以下、訴外会社という。)が通産省の行政指導による構造改善計画のもとに、従来の黄麻製品を中心とする繊維産業から脱皮し、あらたにスパゲティの製造販売事業に進出するにあたり、訴外会社の名称で食品販売を行うのは繊維製造会社のイメージが強く得策でないため販売政策上設立された会社であって、訴外会社の一〇〇パーセントの子会社である。すなわち、食品販売面では原告が得意先に対する窓口になってはいるが、商品の受注、発送は訴外会社が原告を介して行い、代金の請求も訴外会社より原告に通知されると同時に、それと同額の請求書を原告名義で得意先に発送していたにすぎない。したがって、原告の売掛金は最終的には訴外会社の売掛金として収受され、原告の経費もすべて訴外会社の経費として処理される関係にある。このように、原告の商取引は全て訴外会社の計算で運営され、そこから生ずる損益は全て訴外会社に帰属する関係にあるのであって、法律上別会社であるとはいえ、原告は、実質上は訴外会社の一部門にとどまるのであり、結局、原告は、法的にはともかく、経済的には全く損益の発生しない会社である。

3  原告の昭和四六年一二月一日から昭和五一年五月三一日までの各事業年度(第二期から第九期まで)の損益計算書の内容は別表記載のとおり(訴状添付の別表に記載の事業年度のうち、「47・4・1~47・5・31」とあるのは「46・12・1~47・5・31」の明らかな誤記と認める。)である。しかし、第二期から第七期までの各期において多額の繰越欠損を計上してきたのは全く帳簿操作上の誤りであった。すなわち、前述のように商取引の計算及び損益の帰属の面から実質上訴外会社の一部門にすぎない原告の帳簿処理は訴外会社の帳簿処理と表裏をなす関係にあるべく、原告の売上高等の収入はすべて訴外会社の収入として、原告の人件費等の必要経費はそのまま訴外会社の必要経費として、処理されるべきであった。ところが、原告が販売会社として得意先の要求により商品の値引をしたり、クレームのついた商品の返品を受けた際、担当者の認識の低さから、そのつど訴外会社との間で売掛金を調整するというあるべき処置がなされていなかった結果、昭和五〇年五月三一日現在において、原告の得意先に対する売掛金総額は金四億四一四八万九九一一円しか存在しないのに訴外会社の原告に対する帳簿上(形式上)の売掛金総額は金五億四六三二万五一一九円残存していることとなったのである。そこで、右の誤りを是正するため、原告は、第八期、第九期においてその繰越欠損を解消した。そのためには、本来ならば各会計年度に遡って値引品、返品についての調整処理をなすべきであるが、それでは事務手続が煩雑となるため、同日一括値引したものとして伝票操作をしたのである。しかし、もとより、現実にこのような金銭の動きがあったわけではなく、それは、前述のように実質上訴外会社の一部門にすぎない原告と訴外会社との間のあるべき帳簿処理に適合させるための単なる経理上の操作にすぎなかった。しかるに、是正措置が過誤のあった年度とは異なる会計年度になされたため、原告の帳簿上、第二期から第七期までにおいては損失が発生し(反面、右損金に相当する金額は訴外会社において益金として計上され、課税されている。)、昭和五〇年度においては右損失にみあう所得が現実に発生したかのような外観を呈することとなった。しかし、それはあくまで帳簿上の是正措置の結果にすぎないのであって、原告には、実質上の所得は全く存在しないのである。しかるに、被告は第四期より前の繰越損失の算入及び第九期分の損金に算入した欠損金額を否認し、原告の右是正措置を認めず本件処分に及んだものであって、その結果は、一方では訴外会社が過分の税を徴収され、他方では、今度は原告が課税されることになるのである。法人税は、実質上の所得者に賦課されるべきであり(実質課税。法人税法第一一条。)、実質上の所得の存しない原告に課税した本件処分は違法である。

4  原告は本件処分について、国税通則法第七五条第四項第一号に基づき直ちに国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、右請求は昭和五三年五月一日棄却された。

5  よって、原告は被告に対し本件処分の取消を求める。

二、請求原因に対する被告の答弁及び主張

1  請求原因1、4の事実は認める。同2の事実は知らない。同3の事実中、別表記載の損益計算書の内容は認めるが、その余の事実は知らない。

2  原告は、(1)独立の商号をもって設立登記した、営利を目的とする商法上の会社であり、(2)経理部門を有し、伝票、諸帳簿を備えて確定決算書を作成し、(3)これを各期の株主総会において承認したうえ、(4)法人税の確定申告を行っているのであって、経済主体としての実体も有するから、国税当局に対する関係においても独立の法人格を有する内国法人として法人税法第四条所定の納税義務者にあたる。なお、原告の設立以来の株主構成は、発行済株式数一万株について、第七期までは中本商事株式会社が九三〇〇株を有する主たる株主であり、その他各一〇〇株の株主から成っており、第八、九期に至って訴外会社が全株式を有することとなったものであって、設立当初から訴外会社の一〇〇パーセント子会社として発足したものではない。

原告が訴外会社の製造したスパゲティを販売する目的で設立されたものであったとしても、仕入れの面はともかく、販売の面においては多数の得意先との間に取引関係を有するのであって、現に、第二期ないし第七期においては、売上や経費の実額を記載したうえ、欠損が生じている旨の確定申告をしているところ、前記(2)、(3)の点(なお、訴外会社と原告の株主は重複し、役員は兼務している。)にかんがみれば、長期にわたる欠損の発生が帳簿操作上の誤りであるなどということはありえないことであり、原告の営業活動が全て訴外会社の計算において行なわれ、これによる経済的効果が全て訴外会社に帰属するということはできない。

3  商品の売買取引に関し、値引、返品等による収益、損失はその事実すなわち値引、返品等の合意がなされた日の属する事業年度の益金ないし損金の額に算入すべきものである。原告主張のクレームの発生等が第八期以前であったとしても、原告と訴外会社間の値引等の合意は昭和五〇年五月三一日(第八期)になされたものであるから、原告がこれを当期の益金に計上したことは相当である。

4  原告は被告に提出した確定申告書において、「当期利益金額」及び「損金に算入した前五年以内の事業年度において生じた欠損金額」を、第八期についてはいずれも金一億〇五四一万〇〇八七円、第九期についてはいずれも金八二〇万一四〇五円として申告した。しかし、原告は昭和四七年一〇月二一日被告に対し、同年一二月一日から開始する事業年度(第四期)以降の確定申告書を青色の申告書により提出することにつき承認申請をし、同日その承認を受けたのであるから、右承認後、原告が青色の申告書により確定申告をしたことにより第八期において損金に算入することのできる欠損金額は、法人税法第五七条第二項により、別表記載の第四期から第七期までの欠損金額合計金七三八九万三六二一円であるから、被告は、第八期について右金額を損金に算入する更正をし、第九期については、原告が確定申告書において当期控除額とした金八二〇万一四〇五円はすでに第八期において損金に算入されているので、第九期の損金に算入することを否認し、第八期の更正処分に伴い生じた未納事業税金三六二万四四二〇円(別紙計算式のとおり)を損金に算入する更正をして右各期の所得金額を算定したものであって、本件処分は適法である。

第三、証拠

一、原告

甲第一ないし第六号証、第七、八号証の各一ないし三、第九号証、第一〇ないし第二一号証

証人岩井成夫の証言

乙第四号証の成立は知らない。その余の乙号各証の成立を認める。

二、被告

乙第一ないし第四号証、第五号証の一ないし三、第六ないし第九号証

甲第一〇ないし第二一号証の成立を認める。その余の甲号各証の成立は知らない。

理由

一、請求原因1、4の事実は当事者間に争いがない。

二、本件処分の適否について検討する。

(一)  原告の昭和四六年一二月一日以降昭和五一年五月三一日までの各事業年度(第二期から第九期まで)における損益計算書の内容が別表記載のとおりであること、原告が被告に対し提出した確定申告書において、「損金に算入した前五年以内の事業年度において生じた欠損金額」を、第八期については金一億〇、五四一万〇、〇八七円、第九期については金八二〇万一、四〇五円として申告したこと、これに対し、被告が法人税法第五七条第二項により別表記載の第四期から第七期までの欠損金額合計金七、三八九万三、六二一円のみを第八期において損金に算入し、原告が第九期の損金に算入した金八二〇万一、四〇五円を否認して本件処分をしたことは当事者間に争いがなく、原告が昭和四七年一〇月二一日に、同年一二月一日から開始する事業年度(第四期)以降の確定申告につき青色申告書によることの承認を受けたことは、原告において明らかにこれを争わないので自白したものとみなされる。

(二)  成立に争いのない乙第一ないし第三号証、同第五号証の一ないし三、同第七、八号証、甲第一〇ないし第二一号証、証人岩井成夫の証言により成立を認める甲第一、二号証、同第五、六号証、同第七、八号証の各一ないし三、同第九号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙第四号証、並びに証人岩井成夫の証言を総合すると、次の事実が認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。

1  訴外会社は米用麻袋の製造等を目的とする会社であるが、昭和四三年ころから多角経営の一環として同会社に食品事業部を設け、マカロニ、スパゲティ等食品の製造販売を始めた。しかし、同会社の商号である「日本製麻株式会社」の名称で食品を直接販売することは、長年の黄麻紡績会社としてのイメージが余りにも強く、他の食品メーカーとの競争上不利であるため、昭和四六年八月九日、実質上同会社の出資によるいわゆる子会社として、右食品の卸売業を目的とする原告会社が設立された。

2  訴外会社は、本来その一部門にすぎない原告には独立した営業上の損益が発生しない会計処理をしたいと考えた。訴外会社内には「ボルカノ食品事業部」(以下、単に食品事業部という。)が置かれ、その敷地、建物、設備一切をその資産で賄った訴外会社所属の食品工場が設けられているが、原告会社の業務は、訴外会社代表取締役中本薫男を最高責任者として、同会社専務取締役兼原告会社取締役岩井成夫がその全般を総括し、その経理は、訴外会社の経理担当者が、原告の営業に従事する従業員(主力をなす外部販売員のほか、事務員数名を含めて約三〇名で、原告会社に籍がある。)から回される伝票を集計処理している。販売業務の方針は、原告が得意先からの注文を受けてこれを食品事業部に発注し、右食品工場が食品事業部の出荷依頼に基づき製品を得意先に発送するとともに、原告に対し出荷案内書を、食品事業部に対し出庫伝票を送付する、この間、原告において売上伝票及び得意先宛の請求書を作成し、売上帳、出荷日記帳に記帳し、他方、食品事業部は、原告に対する売掛伝票及び請求書を作成し、原告より入金の処理をする、というものであり、原告の事業に要する経費はすべて食品事業部の経費として計上するという方針であった。

なお、訴外会社と原告との間で手交された昭和四七年六月一日付覚書(甲第一号証)には、両者間の販売手数料は零とする、両者間及び原告とその得意先との間の仕切値は同額とする、原告が販売に要する一切の諸経費は訴外会社の負担とする、旨の記載がある。

3  原告は法人税について、設立当初の昭和四六年八月九日から同年一一月三〇日まで(第一期)の事業年度は無申告であったが、同年一二月一日から昭和四七年五月三一日まで(第二期)の事業年度以降は、どの程度の実質を備えていたかはともかく、形式的には、株主総会の決算承認を経て確定申告し、その間、前記のとおり第四期以降は青色申告を継続してきた。右申告において、第二期以降昭和四九年六月一日から同年一一月三〇日まで(第七期)の事業年度までは、別表記載のとおり、各事業年度において、仕入高が売上高を相当大きく上まわっており、相当額の営業費を計上したうえ、同表「当期損益」欄記載のとおりの損金を計上している。右は、主として、前記の販売方針による納品後の段階において原告と得意先との間でなされた商品の値引、返品等が、訴外会社と原告との間の仕切値や取引数量に反映しなかったことや、原告の営業経費が一部原告の負担のまま記帳されたこと等によるものであった。

4  ところで、原告から被告に提出された、訴外会社の経理担当者作成の、原告の昭和四七年四、五月の「法人の事業概況説明書」(乙第七号証)の、当期の営業成績の概要欄には、先発の大メーカーの地盤へ割込むため、食品事業部よりの仕入値と売値に逆ざやのケースが発生しており、かつ、経費の割に売上が伸びない、何とか早く利益が計上できるように努力中である、旨の記載がある。

5  原告は、営業上の損益が発生しないという会計処理が当初からの取りきめであるとして、第七期までの累積損金額一億一三六一万一四九二円を一括して消滅させるべく、昭和五〇年五月三一日第八期の決算においては、訴外会社の原告に対する当期の売掛金について、同日現在における訴外会社の原告に対する売掛金総額と原告の得意先に対する売掛金総額との差額に相当する一億〇四八三万〇六一八円の値引をし、その他と合せて合計一億〇五四一万〇〇八七円の当期益金を計上し、また、昭和五一年五月三一日の第九期の決算においては、原告の営業経費等相当額を訴外会社に対する請求の欠落として処理し、合せて右累積損金額と第八期益金額との差額に相当する合計八二〇万一四〇五円の当期益金を計上するという帳簿上の処理をした。そして、原告において益金として計上された右第八期の値引及び第九期の営業経費等は、反面、訴外会社においては同額の損金として計上されていた。

6  因みに、原告の第一期ないし第九期に相当する時期における訴外会社の各事業年度の確定申告における所得金額は、昭和四六年四月一日から昭和四七年三月三一日までの事業年度は九一八三万三〇〇三円、同年四月一日から昭和四八年三月三一日まで及び同年四月一日から昭和四九年三月三一日までの各事業年度は各〇円、同年四月一日から昭和五〇年三月三一日までの事業年度は五一四八万五七七二円、同年四月一日から昭和五一年三月三一日までの事業年度は〇円、同年四月一日から昭和五二年三月三一日までの事業年度は三六七万六三四五円である。

7  なお、右2で認定したような原告の当初の方針にもかかわらず、右3で認定したように、原告と得意先との間でなされた商品の値引、返品等が訴外会社と原告との間の仕切値等に反映せず、原告の営業経費が一部原告の負担のまま記帳されるようなことになったについては、集金段階での値引、返品等に関する原告の外部販売員からの伝票が必ずしも遅滞なく回ってはいなかった、スパゲティ等の販売は不慣れな新規の営業であったところから、適材を得ることが困難であったため、原告会社での人事移動は激しく、それが事務処理の円滑を欠く原因となっていた、従来訴外会社の決算事務はすべてコンピューターで処理していたが、食品事業部についてはこれを手計算で処理したところ、処理すべき伝票の数が極めて多く、加えて、原告と訴外会社とは決算期を異にするというような、両者間の経理面での整合を確保するうえでの難点があった、などの事情が存したことがうかがわれる。

ところで、証人岩井成夫は、右7で認定したような事情が原因となって、訴外会社の原告に対する売掛金額と原告の得意先に対する売掛金額との間に差異が生じているなどの事実の発見が遅れた、右5で認定したような帳簿上の処理は、第八期の決算の前項になってようやく右の事実を発見したので、全得意先への売掛残高照合などの調査をしたうえ、誤差を修正して原告に営業上の損益を発生させない会計に適合させるためにしたものである旨、証言している。しかしながら、右4で認定した事実から考えれば、原告、訴外会社ともに、遅くとも第一期の確定申告をなすべき時期においては、既に、集金段階における原告による値引等が同業者との競争のためには相当程度避けがたいものであること、したがって、右2で認定した販売業務の方針に従っていたのみでは訴外会社と原告との間及び原告と得意先との間の仕切値の同一を確保することは不可能であることを十分に認識していたはずであり、また、その後数期にわたって相当額の損金を計上する決算をしておきながら、第八期に至るまで現実に生じている差異に気付かなかったなどということは到底考えがたいところであるから、証人岩井成夫の右の証言は措信することができない。結局、上記認定の事実関係からすれば、訴外会社としては、当初の方針はともかくとして、現実の販売業務が右方針どおりに動いていないことは十分認識していたけれども、右7で認定したような事情のもとにおいて、営業の過程で具体的状況に即応して個別的になされる前記の販売方針による納品後の段階における得意先との間での値引、返品等や営業経費負担の一部については、これをその都度的確に方針どおりに処理するための十分の監督、管理をすることができないので、やむなく、原告の独自の判断に基づく処理に委ね、その結果生ずる当初の方針とは異なる会計処理をそのまま容認していたというのが実情であったと推認するほかはない。

(三)  右認定事実によれば、原告は訴外会社製造のマカロニ、スパゲティの販売を目的とする会社として経済上訴外会社に従属するものと考えられるが、法人格を有する独立の会社としての法的性格において欠けるところはないと言わねばならず、本件処分がなされた事業年度のみならず、それ以前の各事業年度を通じ、国税当局に対する関係においても独立の納税義務者としての実体を有してきたものである。したがって、原告と訴外会社との間において、原告の営業上の損益をそのまま訴外会社の損益として帰属させる経理上の処理方法を原則としていたとしても、それは関連会社間の内部的取りきめにすぎないもので、これにより、法人税の課税にあたり、その計算の基礎となる原告の会計帳簿上の記載を右取りきめに適合するように実体解釈しなければならないいわれはない。しかも、商品の値引、返品や営業経費の負担等に基づく事実上の経済的効果は、通常、それらの行為の法的効果と帰属をともにするものであるところ、前記認定の事実からすれば、原告は、独自の判断でこれらの行為を行ない、訴外会社との間の取りきめにもかかわらず、その法的効果を訴外会社に振替える行為をすることなく、それがそのまま原告に帰属しているものとして、本件処分にかかる事業年度前の第二ないし第七期には欠損金額を計上し、訴外会社との前記取りきめに副わない会計処理及び法人税確定申告を継続しているのであって、右の事実からすれば、そのような会計処理は原告会社の現実の計算をそのまま正当に反映してきたものとみるべきである。したがって、第七期決算期の原告には、現実にその計上する額の欠損が発生していたものであるところ、原告は、本件処分にかかる各事業年度において、前記(二)の5で認定したとおりの会計処理をし、これに対応して、訴外会社は原告の計上した第八期の値引及び第九期の営業経費等と同額の損失が現実に発生したものとして処理しているのである。

以上述べたところからすれば、本件処分にかかる各事業年度において、原告には、当期益金として計上した金額相当の益金が生じたものというべきこととなる。そして、そうである以上、第二ないし第七期に生じた損金を当然に本件処分に関する各事業年度の損金として処理することが許されるわけではない。

(四)  そうすると、被告が原告の第八期の確定申告につき、欠損金額の損金算入額を法人税法第五七条により第四期以降の合計金七、三八九万三、六二一円と更正し、第九期の確定申告につき、金八二〇万一、四〇五円の損金算入を否認したうえ、第八期の更正による所得金額について生じた未納事業税として別紙計算式のとおり算出した金三六二万四、四二〇円を控除して、各所得金額を算定し、これに基づき、所定法条により適法に算出したことが認められる法人税額をもってなした各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定に違法はないものと言わねばならない。

三、よって、原告の請求は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民訴法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富澤達 裁判官 松本克己 裁判官 鳥羽耕一)

別表

〈省略〉

別紙 計算式

(未納事業税の計算)

課税所得金額 31.516.000円

〈1〉 350万円以下 〈省略〉

〈2〉 350万円超

700万円以下 〈省略〉

〈3〉 700万円超 〈省略〉

105.000円+157.500円+3.361.920円=3.624.420円

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